スポンジがフワッフワにふくらまない

Q: スポンジがお菓子屋さんで売っているもののように、フワッフワになりません。どうしたらいいのでしょうか?

A: 結論からいいます。菓子屋で売っているもののようにフワッフワには、普通なりません。
フワッフワというのは、非常に目が細かくてソフトなもののことだと思いますが、そうするためには菓子屋では普通、添加物の気泡剤を使います。多くはSP(エスピー)と呼ばれるもので、脂肪酸エステルという乳化剤を各種配合したものです。これはとても便利なものです。

卵、砂糖などと共にこの気泡剤を加えて泡立てるだけ、かなり長時間泡立てますが、とてつもなく目の細かい大量の安定した泡立ちを得ることができます。必ずしも温める必要もありません。粉やバターを加えて混ぜても、パレット・ナイフでのして、たくさんいじっても、また、そのまま少し放置しておいても、泡は消えにくいのです。
たくさん混ぜても泡が消えにくいので、材料をより細かくよく混ぜることができます。結果として、きめの細かい、フワッフワのとても柔らかいスポンジになります。ほんとうに便利なものです。

こういうスポンジが望みであれば、この気泡剤、製菓材料専門店やネットショップなどで手にはいるようですので、使ってみることもできます。でも、メリットばかりでもありません、デメリットもあります。

気泡剤を使うと、あまりにも目の細かい大量の泡の生地になってしまいます。そのため、味が希薄になってしまう、せっかくの粉や卵やバターの味を感じにくくなってしまうのです。体積的に希薄になってしまうのと、大量の細かい泡に包み込まれて、味がかくれてしまうためだと思われます。

それからもうひとつ、目が細かくなるにしたがって口どけが悪くなります。えっ?と驚かれるかもしれません。普通、きめが細かいと柔らかい、柔らかいと口どけがいい、と思いこんでしまいがちですが、実際は、目が細かいと口の中で拡散していきません。
寄り集まって団子になったり、たくさんの唾液が吸われて口の中がかわき、物が飲みこみにくくなったりします。つまり、口どけが悪くなります。それでも、物に水分が多く含まれていれば分りにくいですし、飲み物で流しこんで気づかずに済ましてしまうことも多いのですが。
口どけが悪いと、やはり、風味を感じにくくなって、味が希薄になります。

目が細かくてソフトな食パンと目が粗いハードなフランスパンを比べてみれば、分りやすいかと思います。食パンのほうが好き、フランスパンのほうが好き、それぞれ好みはあるでしょう。でももちろん、それは優劣ではないですね。
食パンには食パンの良さ・個性があり、フランスパンにはフランスパンの良さ・個性があります。食パンには歯に柔らかく、あごに力のいらない、優しい食感があります。身体が疲れている時や、まだ身体が覚めきっていない朝には、この優しさがありがたいと思うこともあるでしょう。
フランスパンには外側のクラストの香ばしさ、パリパリの心地よい食感があり、口どけがよく、飲み込みやすく、粉の風味や酵母による発酵の旨味を充分に感じとれるという良さがあります。


本題に戻りましょう。
店で売っているようなフワッフワなスポンジがいいのだったら、気泡剤をためしてみてください。でも、考え方を変えてみることもできます。
自分で手づくりするのだったら、化学工業的に発展してきた手法をまねする必要はないのではないか。フワッフワをほんの少しだけ我慢しても、口どけもよく味わいもいいのができるのだったら、そのほうがいいのではないか。そう考えてみてはいかがでしょう。