シェソアのスポンジの作り方(1)

「シェソアの」といっても、特別なものではありません。ごく普通の一般的な手づくりのスポンジです。口どけもそう悪くなく、味わい深いものです。なおかつ、柔らかさもこれでも充分じゃないかと思わせるものだと思います。

スポンジにもたくさんの種類がありますが、これは、いわゆる共立てといわれる、全卵を泡立ててつくるものです。卵を卵白と卵黄に分けて作る、別立てと呼ばれる方法と区別して、共立てと呼ばれます。ジェノワーズと呼ばれるものです。その共立ての中でも、目の細かいソフトな部類です。目が細かければソフトになり、目が粗ければハードになります。

最初にわかってほしいことは、目が細かいか粗いか、柔らかいか固いかということは、良し悪しではないということです。柔らかいスポンジにはやさしい触感、歯やあごに力のいらないホワッとしたやさしさがあります。固いスポンジには風味の強さ、噛む心地よさや口どけのよさがあります。
その柔らかさ、固さにも、とても柔らかいものからとても固いものまで、さまざまなたくさんの段階があります。それぞれに良さがあり、適切な利用のされかたがあるということです。クリームや他の材料との組み合わせによって、また、でき上がりのお菓子に何を求めるか、どういう味わいのお菓子にしたいかなどにより、適切な段階のものを選ぶことになります。

今回は、ソフトなほうの部類のスポンジです。ショートケーキのような生クリームだけのシンプルでフワッとしたお菓子に合います。逆に、たとえば、濃厚なチョコレートクリームやバタークリームとカリカリのナッツといった組み合わせには不向きなこともあります。そういう場合には、同じ共立てでも、意識的に目の粗いスポンジにしたりします。


〈準備〉
1. オーブンは必要な温度にセットしておきます。オーブンによりますが、少なくとも30分は前もってつけておき、庫内を充分に温めておくことが大事です。業務用のオーブンなどだと、1時間以上も予熱しておくことがあるくらいです。
温度もオーブンによってさまざまです。

   天板の場合(40cm×30cm)  ……190℃~210℃
   型の場合(直径18cm~20cm)……160℃~180℃

大体の目安です。この範囲をこえることもあります。オーブンはメーカーによって、機種によって、また、同じ機種でも一台一台違います。最終的には何度も使ってみて、そのオーブンとなかよくなって確かめていくしかありません。焼く時間に関しても同じことがいえます。何度で何分と言いきってしまうことはできないのです。

2. 天板にはオーブン・シートを敷きます。焼型なら底と回りに紙を敷くか、バターを塗って粉をつけます。バターはむらなく塗り、そのバターが固まってから強力粉を少し余分に入れ、型を回すようにしてまんべんなくつけます。それから型をひっくり返して余分の粉を落とし、さらに台にトンと打ちつけるようにして、余分の粉を完全に落とします。室温が高い時は、バターが溶けて粉と混ざり合ってしまいますので、冷蔵庫に入れるなどしておこなってください。
型の立ち上がりが傾いているようなものや複雑な形をしたものなど、紙をつけるのが困難な型には、このようにします。

3. 湯せんにするためのお湯を鍋に沸かし、湯温60℃位にしておきます。

4. ハンドミキサーを使う場合、ボールは泡立て用の羽根で傷つかない材質のものを使ってください。18-10のステンレス製がおすすめです。


〈材料と分量〉
  卵           200g
  グラニュー糖      136g
  薄力粉         91g
  強力粉         13g
  バター          28g
  牛乳           32g

分量は、天板なら40cm×30cm、丸型なら直径18cm~20cm相当のものです。これより小さな天板か型しかなければ、容積を計算して、分量を減らしてください。

1. 卵はMサイズで、1個当たり、黄身が16~17g、白身が34~35g、計50~52g見当のものです。ボールに4ケ割りいれて200gを超えていれば、白身だけを少し取り去って分量の卵になるようにしてください。

2. グラニュー糖は上白糖に比べてすっきりした品のいい甘さになります。上白糖のほうが出来上がりのスポンジがよりしっとりしますが、ちょっと舌をさすようなべったりとした甘さになるようなので、シェソアでは使っていません。目の細かいソフトなスポンジが目的の場合は、砂糖の量が多いことがポイントです。

3. 薄力粉と強力粉はよく混ぜてから、ふるっておきます。シェソアでは北海道産の小麦粉を使っています。

4. バターと牛乳は合わせて火にかけ、溶かしておきます。バターは発酵バターが味の面からおすすめです。


まずは全体の流れをイメージしておきましょう。
〈泡立てる〉→〈混ぜる〉→〈焼く〉という流れになります。

〈泡立てる〉
1. ボールに卵とグラニュー糖を入れ、湯せんにかけて、ホイッパーで混ぜながら35度まで温めます。温めるのが目的なので、ここで泡立てる必要はありません。よく混ぜて砂糖をよく溶かし、温めるだけです。温めるのは泡立ちやすくするためです。温度を厳密に守ってください。これ以上低いと充分に泡立ちにくくなりますし、これ以上高いと、いわゆるボカ立ちといわれる状態になりやすいようです。
ボカ立ちとは、弱くてこわれやすい大きな泡がたくさん立ち過ぎている状態です。見た目にはよく泡立っているように見えますが、次に粉やバターを混ぜた時にとてもこわれやすい泡で、結果として目の粗い少しハードなスポンジになったり、ふくらんだものがしぼんだりしがちです。お菓子によっては、意識的にそうすることもありますが、今回はとにかくソフトな目の細かいスポンジのつくりかたです。

2. 35度になったら、すぐ湯せんからおろし、ただちに泡立てます。速度は最高速にしてください。温かい内に充分に泡立ててしまうのです。一度温まった卵が冷めたものは非常に泡立ちが悪くなりますので、すべての準備を整えておいて、所定の温度に達したら湯せんからおろし、間髪をいれずに一気に泡立てていきます。ハンドミキサーの場合、ミキサーを持った手をじっと固定しておかないで、ボールの中身全体をよく混ぜて回すように動かし続けてください。
ミキサーにもよりますが、5分くらいでかさが増え、かなり白っぽくなります。ミキサーによって、作る量によって時間は変わります。もとの卵の色にもよりますが、クリーム色もしくはオフ・ホワイトといった色になり、もうこれ以上かさが増えないというところまで泡立てます。生地をすくって垂らしてみると、あとが消えずに残ります。泡立ちの具合は、卵の質や鮮度、気温、季節などによって、毎回微妙に異なってくるのですが、それも面白さととらえて楽しむことにしましょう。

3. 充分に泡立ったら、卓上のミキサーなどでしたら、速度を中くらいに落とします。ハンドミキサーだとメーカー、機種によりさまざまです。最初の泡立てがあまり時間もかからず、あっという間に泡立ってしまうようなら、一段階速度を落としてみましょう。もし、泡立ちがゆっくりで時間がかかる、なかなか泡立たないといった印象なら、速度はそのまま、最高速のまま続けます。ここからさらに10分ほど泡立てを続けるのがポイントです。
充分泡立ったものをさらにきめ細かい泡立ちにして、このあと粉やバターを混ぜてもこわれにくい強い泡にしてあげるわけです。これが足りないとスポンジがふくらまなかったり、ふくらんだものがしぼんだりして、失敗の大きな原因のひとつとなります。スポンジがふくらまない原因は、ただ単にこの泡立ての時間の短さによることが多いようです。
ハンドミキサーの場合、10分はかなり長く感じますので、覚悟して続けてください。
第一段階の泡立ちより、充分に細かい目の泡立ちになり、軽く泡立ったものが少し手ごたえのある固さを感じるように変化します。どこまで泡立てたらいいのか、どうなったらいいのかを正確に言葉で表すのは至難です。簡易に比重を計る方法もあるのですが、比重が同じならいいとも限りません。同じ比重でも、目の細かさ、泡の強さがそのつど違ったりするからです。やはり、フィードバックしながら何度もやってみて、自分で確認をしていくのが一番確かだと思います。