抹茶と小豆のパウンドケーキ(1)




抹茶と小豆のパウンドケーキ。こういう和素材のケーキは滅多に作りませんが、思うところあって作ってみました。

小豆の香りは心地よいものですが、強い香りではないので、抹茶の強い香りに消されてしまって、何がはいっているのだか分らない味になってしまいます。かといって抹茶の量や風味をおさえれば、今度は色ばかりで抹茶を使う意味が分らなくなってしまいます。バランスをとって味を創り出すのがなかなかむずかしいケーキですね。

また、渋みはケーキに合わないので、注意が必要です。渋みは他の味を消してしまいます。何か食べたあと、口の中をリセットする、さっぱりさせる効果があります。ですから、何かと組み合わせる場合は相手の味わいを消してしまいがちなのです。
フランス菓子でも白ワインやシャンパンをお菓子に使うことはあっても、渋みのある赤ワインを使うことはあまりありません。数少ない例として、洋なしやプラムの赤ワイン煮や赤ワインゼリーなどがありますが、その場合も渋みの少ない赤ワインを使うことがポイントとなります。
抹茶のケーキも渋みの少ない抹茶を使うことがポイントとなりそうです。生クリームや蜂蜜やチョコレートなどを使って渋みをやわらげてあげるほうがいいかもしれません。

(作り方)
作り方はシンプルなパウンドケーキと何ら変わりません。

発酵バター       110g  よつ葉発酵バター
微細グラニュー糖   105g
はちみつ           5g
卵黄                40g
卵白                            70g
薄力粉                      120g  ドルチェ/江別製粉
ベーキングパウダー    3g  ローヤル
抹茶                        7~8g
ゆで小豆      120~150g  (水切り後重量)

シュガーバッター法で作ります。バター、砂糖、卵、粉の4つの主材料を順にまぜていくだけです。
ポイントは2点です。一つ目はバターの乳化をこわさずに砂糖と卵を混ぜること、これが最も大事です。そして二つ目は粉のグルテンを出さないように混ぜること。とにもかくにもこの2点を完璧にすること、これがパウンドケーキをおいしく作るコツです。

(下準備)
1.まず下準備です。
ゆで小豆はざるなどにあけて水気をよく切っておきます。
卵はよく溶いて常温に戻しておきます。バターも常温に戻しておきます。温かい所に置くなどして、やや高めの23°~25°にしておきます。バターは決して溶かさないようにしてください。室温は20°~25°が適温です。室温が15°以下、27°以上ではうまくいきにくいと考えてください。
冷暖房の風は直接あたらないよう注意します。
薄力粉とベーキングパウダーと抹茶をよく混ぜてふるい、冷蔵庫に入れておきます。
パウンド型(長さ15cm、幅8㎝、高さ6cm、容量600cc)にグラシン紙などの型紙を敷きこんでおきます。

(とにもかくにも乳化が大事)
2.ボールに入れた適温のバターを木べらで混ぜてクリーム状にします。ホイッパーではなく木べらです。固くしっかりしたものであればゴムべらでも結構です。クリーム状になったら砂糖とはちみつを加えて混ぜます。泡立ててはいけません。
バターの中には8割位の脂肪分と2割位の水分があります。油中水滴型の乳化といいますが、脂肪分が水滴を包むような格好で、脂肪分は切れずにどこもつながっている状態で水分をかかえこんで乳化をしています。
バターを泡立ててしまうと、この脂肪分の中に空気が入り込んで膨張し、空気がはいればはいるほど脂肪分のつながりは引き伸ばされて薄く薄くなってしまいます。乳化が弱くこわれやすくなっていくわけです。その段階では乳化を保っていても、次に加える卵の水分を抱え込みにくくなって、乳化がこわれやすくなってしまいます。
バターも泡立てませんし、砂糖を加えてからも泡立てません。時間をかけてただよく混ぜるだけです。スタンドミキサーやハンドミキサーを使う場合は速度がかなり遅いことが条件です。速度が速いと泡立ってしまいますので、速度が遅くならないミキサーなら、手で混ぜてください。
パウンドケーキの作り方はいくつかありますが、この作り方ではベーキングパウダーでふくらませますので、バターも卵も泡立てる必要はないのです。

3.砂糖が充分に混ざったら卵を少しずつ加えて混ぜます。慣れない内は10分の1くらいずつ加えて混ぜるのがいいでしょう。
ここが最大のポイントです。少しの卵を加えたら、木べらで混ぜていきます。やはり泡立てないように混ぜます。乳化させる混ぜ方は言葉ではなかなか伝えにくいのですが、この加えた卵にバター全体をいきなり混ぜるのではなく、卵を少しずつ少しずつバターで包み込むような混ぜ方をします。

バターに卵が取りこまれて乳化すれば、表面はなめらかになり、混ぜる手に重さ、固さを感じるようになります。加えた卵の内のほんの少しがバターに取りこまれて乳化したその部分に、また少しの卵が取りこまれて乳化し、、そうして次々に乳化しながら混ざっていくような混ぜ方です。
乳化していない部分にさらに卵が混ざろうとすると、乳化が弱くなったり、乳化がこわれて分離したりするわけです。卵にバターを混ぜるのではありません、バターに卵を混ぜるのです。

そうして加えた卵が完全に乳化してから、次の卵を加え、同様に混ぜていきます。
注意するべきは温度と混ざったものの固さです。混ざったものは室温の影響を受けて温度が下がったり上がったりします。混ざったものの温度が20°より下がっていくようであれば、次に加える卵を湯せんにつけて温めて加えます。室温が低ければ、卵の温度は27°位までは温めて大丈夫です。もし混ざったものの温度が25°より上がっていくようであれば、卵の温度を逆に下げてあげなければなりません。その場合は20°くらいまでは下げて大丈夫です。
いずれにしても、乳化して混ざったものが急に固くならないか、あるいは急に柔らかくならないかなどに細心の注意をはらって、卵の温度を調節しながら混ぜていきます。
温度を調節するために、混ぜているボールのほうを温めたり冷やしたりするのは避けたほうがいいでしょう。バターは一部分でも過度に温まったり冷えたりすると乳化を悪くするからです。
いずれの段階でもバターは決して溶かさないでください。いったん溶けたバターは再び固まっても良い乳化の状態に戻ることはありません。
パウンドケーキのように、バターと卵が同じ分量である場合は完璧に乳化させるのは簡単ではありません。正しい混ぜ方を知らなければ、ほとんどの人が分離させてしまうくらいむずかしいものです。しかし、この乳化がうまくいけば、パウンドケーキのおいしさは保証されたようなものです。

繰り返して言います。バターも卵も泡立てないでください。バターと卵がよく泡立っていれば、乳化していなくても一見なめらかに乳化しているように見えます。しかしそれは、泡立ったその泡立ちの中に水分の一部が取りこまれているわけで、すべての水分をバターが取りこんで、バターの脂肪分が強くつながっている本来の乳化とは違っているのです。

卵がすべて充分に強い乳化状態で混ざったら、重く固い手ごたえを感じるようになります。バターに等分量の卵が入るのだから、このバターはゆるく柔らかくなると思われるかもしれませんが、強く乳化していれば、温度が高くならない限りゆるくなることはありません。
また、分離したからといって粉を少し加えて混ぜるのはあまり意味がありません。分離した水分を粉にふくませてつないでも、分離が目に見えなくなるだけで、つながりの切れたバターどおしが再び強くつながるわけではありませんし、過度のグルテンが出てしまうだけさらによくなくなるだけです。
卵が乳化よく混ざったら、次は粉の混ぜ方です。

(次回に続きます。)