抹茶と小豆のパウンドケーキ(2)

(グルテンを出さない)
4.卵がすべて充分強い乳化状態で混ざったら、次にふるっておいた粉類を混ぜます。乳化の次に大事なことはいかにグルテンを出さないかということです。
「グルテンを出す」とは変な言い方ですが、小麦粉に含まれる蛋白質に水分が作用して、混ぜる、こねるなどの力が加わることによって、粘りと弾力のあるグルテンが形成されることを、ここでは「グルテンを出す」と言うことにします。

パウンドケーキの場合、グルテンが過度に出ると焼き上がりの生地に「ひき」が出ます。噛む歯と顎に力がいるようになり、また口どけが悪くなります。口どけが悪いと味も希薄になってしまいます。パウンドケーキの優しい歯ざわり、心地よい口どけ、粉やバターなどのシンプルな材料のその味わいをなくしてしまいます。また、焼き縮んで固くなる原因にもなりますし、ひどい場合には出来そこないのパンのようになってしまいます。
粉を加えてただ混ぜるだけでもグルテンは出ます。グルテンを極力出さないように粉を混ぜる必要があります。グルテンが出るには水分と力が必要なのですから、水分と力の影響を出来るだけ与えないようにしなければなりません。
そのためにもまず乳化が最も大事です。バターに卵まで混ぜ終わったものが充分強く乳化していれば、水分は脂肪分によって包みこまれているわけですから、粉に対する水分の影響が少なくなり、グルテンが出にくくなります。乳化が不充分であれば分離している水分によってグルテンが非常に出やすくなります。
バターや卵が泡立ってしまって乳化しているように見えているだけ、あるいは少量の粉でつないで乳化しているように見えているだけでは駄目だということがお分りでしょう。

グルテンは温度が低いほど出にくいということがわかっていますので、粉類は冷蔵庫で冷やしておきます。

乳化がうまくいっていれば、次は混ぜ方です。粉に出来るだけ力を与えない、負荷を加えない混ぜ方をしてあげなければなりません。粉類は一度に加えます。少しずつ加えて混ぜると、粉を混ぜ終わった時には、最初の段階で混ぜた粉は混ぜ過ぎの状態になっているわけですから。
固さのあるものに混ぜるときは、粉は原則一度に加えます。水分の多いもの、液状のものに混ぜるときは、一度に加えると粉のだまが出来て混ざらなくなるので、例外的に何度かに分けて加えて混ぜるわけです。
 
粉を一度に加えたら、へらで切り混ぜます。決して練ったりこねたりしないようにします。乳化して混ざっているバター、砂糖、卵の固まりを切り分けるように混ぜます。この固まりを小さく寸断していく、その寸断された小さなかたまりに粉がくっついて混ざっていくイメージです。
これが大きな団子になっていかないよう、小さく小さく分かれていくように混ぜます。粉はボールの底に沈んで混ざりにくくなりますから、時々ボールの底にたまった粉を大きくすくいあげて上に持ってくるようにします。
粉の8割位が混ざっていくと、固まりどおしがくっついて大きな団子になろうとします。そして細かく切り分けることができなくなります。そうなったら、全体を2つに切って上下を入れ替えるような混ぜ方をします。
粉の白いのがちょうど見えなくなったらストップです。くれぐれも混ぜ過ぎないよう、へらを当てる回数が少なくて混ざるほどいいと思ってください。このあとなお小豆を加えて混ぜますので、本当にぎりぎりの混ぜ方でいいのです。つやが出るほど混ぜてはいけません。
まだもう少し混ぜたいかなと思うくらいのところで小豆を加えて、やはり切り混ぜます。もう出来るだけ混ぜない、小豆が全体に散らばるだけでいいのです。

乳化が完璧にいっていれば、粉に水分が影響せずにグルテンは出ないのではないかと思われますが、現実にはやはり混ぜ方が悪いと違いが出ます。いかにグルテンを出さずに均一に混ぜるかが腕の見せどころかもしれません。
 
(型入れ)
5.混ぜ終わったら直ちに型に入れます。340g量って入れます。残りの生地は小さなカップなどに小分けして焼くといいでしょう。
型に入れたら、中央を大きく窪ませることが重要です。型の底と4つの壁に2㎝位の厚みの生地がある感じです。つまり小さなパウンド型が中にすっぽり入るくらいに窪ませます。「エーッそんなに!」というほどです。
なぜそんなに窪ませるかというと、火の通りをよくするためです。小さな型で焼く場合はその必要はありませんが、大きな型で焼く場合はどうしても火の通りが悪くなってしまいます。中央を大きく窪ませないと、中心まで火が通らない内に外側が焼き固まってしまい、中からふくらもうとするのを押さえこんでしまいます。ふくらみが悪くなって固く締まったような焼き上がりになりがちだからです。

(寝かせる)
6.型入れしたら必ず冷蔵庫で寝かせます。決してすぐに焼かないでください。混ぜ終わった生地は充分な乳化をさせ、粉の混ぜ方に注意をしたとしても、やはり多少のグルテンは出ているでしょう。それを寝かせることによって落ち着かせます。少し時間をおくとグルテンの結びつきが弱くなる性質を利用するわけです。
寝かせずにすぐ焼くと、やはり「ひき」が出て口どけも悪くなります。また、結果として中の生地にむらが出来たり、大きな気泡が所々に出来てきめの粗いものになったりしがちです。
冷蔵庫で寝かされ冷やされることによって、生地は落ち着きグルテンはゆるみます。強く乳化したバターは水分を抱えこんだまま冷やされて固くなり、安定した乳化の状態を保ちます。
寝かせる時間は少なくとも3時間くらい、半日でも1日でも結構です。乾燥しないように密封して冷蔵庫に入れておきます。
この頃のベーキングパウダーはすぐ焼かないとふくらみが悪くなるなどということはないようです。何の問題もありません。

また、このように生地に小豆を入れたり、あるいはレーズンなどのフルーツなどを入れた時に、それが底に沈んでしまったという話をよく聞きます。乳化がうまくいっていて、冷蔵庫で充分に寝かせたものであれば、そんなことは起こりえません。フルーツ等に粉をまぶすなども、全く必要ないのです。
混ぜ終わったばかりの生地は温度が上がっていて柔らかくなっています。すぐにオーブンで温められるとバターはすぐに溶けだそうとします。その上に乳化がうまくいっていないと、脂肪分と水分が分離している状態で温まるわけですから、軽い脂肪分は上に浮こうとし、重い水分は下に沈もうとします。それに引きずられてフルーツ等の重いものは底に沈むのではないかと考えられます。

(次回に続きます。)