マドレーヌ、どっちがほんと?

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Q:マドレーヌは真ん中がぽっこりふくらんでいるのと、なだらかなのと、どっちがほんとなのですか?


A:結論から言いますと、どっちもほんとです。おいしくさえあればどっちでもいいのではないかと思います。

フランスでは手作りでも大量生産のものでもいずれもぽっこりふくらませているようです。一方日本では、手作りではおへそがぽっこりふくらんでいるのを良しとし、スーパーやデパートなどで売られているような大量生産のものでは、なだらかにふくらんでいるものを良しとするようです。
量産の場合は、おへそがふくらんでいると置いた時に安定が悪く、包装機にもかけづらいし(脱酸素剤等を入れる場合)、陳列や箱詰めもやりにくいから、なだらかにふくらませているということです。


ふくらみ方をコントロールするにはいくつかの方法があります。

1.生地の配合
配合的に生地の流動性を低くする、つまり粉の量を多くして水分量を少ない配合にすれば、オーブンの中で生地の周り、淵のほうが先に固まって動かなくなり、まだ固まっていない生地が中央に集中して、ぽっこりふくらむことになるわけです。
その逆に配合的に粉の量を少なくしたり、牛乳を加えるなどして、生地の流動性を高めてやれば、生地は淵のほうがあまり早く固まらず、全体にふくらもうとします。結果、真ん中があまりふくらまず、なだらかになるというわけです。

2.卵の泡立て
卵の泡立てではなく、ベーキングパウダーの力で主にふくらませるほうが真ん中がふくらみます。ベーキングパウダーでは高温になってから一気にふくらみます。その時には周りはすでにある程度固まっていますので、ふくらみは中央に集中するのだと思われます。
焼きあがったものを2つに切ってみると、中央に気泡が勢いよく上に上った跡が見えます。一方、卵をたくさん泡立てるやり方だと、細かい気泡が生地全体に散らばっている状態なので、全体にゆっくりとふくらもうとし、その為なだらかなふくらみになりやすいようです。

3.型の処理
生地はオーブンの中で周りから熱が入っていきます。そのため淵のほうが先にすべり上がり、それから中央へふくらんでいこうとします。その淵のほうの生地のすべり上がりが多ければ中央のふくらみは少なくなります。逆に淵のすべりが少なければ中央で多くふくらみます。
型にバターや油を塗るだけなら、淵のすべり上がりは多くなりますし、バターを塗って粉を付ければ淵のすべり上がりは少なくなります。型の材質によっても違ってきます。

4.焼き方
焼き方でも変わってきます。
比較的低温でゆっくり焼けば、生地は全体にふくらんでなだらかになり易いようです。高温で一気に焼こうとすると、淵の固まりが早いため、中央がぽっこりふくらみ易くなります。オーブンの性格にもよります。

他にも方法はあるかもしれませんが、現実にはいくつかの方法を組み合わせて、自分のイメージの形に焼き上げることになります。


ところで、冒頭に書きましたように、大量生産の場合、日本ではふくらみをなだらかにすることが多いのに、フランスではお構いなしにぽっこりとふくらませています。
置いた時に安定が悪いという条件にいずれも変わりはないのに、どうしてだと思いますか?

日本では、シェル型で焼いた場合の溝のついた模様になっているほうを表と信じて疑わなかったのでしょう。フランスではぽっこりふくらんだ伝統の形を重んじ、ふくらんだほうを表にしたということでしょう。あるいは、模様にあまりこだわりがなく、安定のいいほうを選んだということかもしれません。

フランスでのマドレーヌの形にご興味のあるかたは、‘madeleine de commercy’で検索してみてください。



お菓子の冷凍

冷凍って良くないんじゃない?って声が聞こえてきそうですね。肉や魚や野菜などの生ものの冷凍から、ばさついていたり、繊維がこわれていたり、風味が抜けていたりするイメージを持つからでしょう。

でも、みなさんよくご存知の小豆の餡や乾物などを思い浮かべてください。このような、糖分が多いものや水分の少ないものは冷凍・解凍しても変化はほとんど感じられませんね。生の果物でもよく熟したマンゴーやパパイアなどはダメージが少ないことが分ると思います。 



お菓子の冷凍に関するシェソアの考え方はこうです。 


お菓子はもともと糖分の多いもので、基本的には冷凍に非常に向くものだといえます。もちろん、それなりの考え方、作り方をすることが前提です。何でもかでも冷凍庫にぶちこんで、冷凍できるというのは違います。効率のため、無駄を出したくないためにだけ、冷凍庫を利用する、そのために多少(?)まずくなるのは仕方がない、という考え方とは根本的に違います。


シェソアでは冷凍してもダメージは感じられない、冷凍してもまずくならない、あるいは一歩進んで、冷凍したほうがおいしくなる、という場合だけ、冷凍できるという言葉を使います。 


かつて冷蔵庫というものができ、冷蔵技術というものがすすんで、たくさんの洋生菓子が作られ、また売られることが可能になりました。それまでは乾いた焼き菓子の類か、バタークリームやチョコレートクリームのケーキ、それも糖度の非常に高いものしかなかったわけです。


冷蔵庫でも当初は乾燥するとか、風味が飛ぶとか、冷蔵は良くないよといった意見もあったことでしょう。でも今や、冷蔵庫なしではショートケーキもババロアもムースも、いや、ほとんどの洋生菓子は作ることも売ることもできません。冷蔵庫というものを、冷蔵という技術を利用して、おいしいものを作るという考え方に変わってきたのです。 


シェソアは冷凍庫というもの、冷凍という技術に対しても、それと全く同じ考え方をとります。冷凍庫をひとつの道具として、冷凍庫を利用して良いものが作れるなら、積極的に利用する。もし良いものができないのなら頑として使わない、ということです。 


冷蔵庫や冷凍庫と同じように、ひとつの道具として、たとえば、電動のミキサーというものがあります。泡立てたり、混ぜたりするものですが、たいそう便利な物で、ある程度の量を作るには欠かせないものです。この電動ミキサーも、たとえばスポンジを作るときなど、手で泡立てるより良いものができるなら、もちろんすすんで使います。が、もし物によって手で泡立てるほうがよりいいものができるなら、多少大変でも手で泡立てる方法をとります。


卵の泡立てはミキサーのほうが良くても、最後に粉を混ぜるのは手で混ぜるほうがよりよい結果がでるなら、手で混ぜる方法をとるということです。

手と遜色ない動きができる、あるいは手で混ぜるよりいい結果が出る、そんなミキサーが開発されるまでは、大変だろうが効率が悪かろうが、相変わらず手で混ぜる方法をとります。 

冷凍庫、冷凍技術に対する考え方も、根本的にはこれと全く同じなのです。



では、冷凍を利用しておいしいお菓子を作るにはどうしたらいいのでしょう。


科学的にあまりややこしいことは置いておいて、分りやすくシンプルに考えてみましょう。 


冷凍することで何が良くなくなるのでしょうか。単純に言えば、食品中の水分が凍り、氷の結晶が膨張していく過程で組織がこわれ、水分は分離した状態で凍り、解凍した時、組織も水分も元に戻るわけではないからと考えられます。 


機械技術の進歩はめざましいものがあり、冷凍技術の改良により、冷凍によるダメージを少なくする方法もあるわけですが、手づくりの作り手の立場からは、まずお菓子の固形分量を増やし、水分量を減らす、水分の分離を減らすことが考えられます。それから、それでも分離する水分をうまく取り込むことを考えます。


このことをふまえて、具体的な例をあげてみます。 


まず、水分の少ないもの、たとえばクッキー類などの乾いた焼き菓子は基本的には冷凍可能ではあるのですが、解凍する時に結露等で湿気を含んだりして、あまりおすすめではありません。


パウンドケーキなどのやや水分量の多い焼き菓子は、配合や作り方にもよりますが、基本的には冷凍しないほうが良いと思われます。


タルトやパイなどもそうですが、これらの焼き菓子のほとんどは焼く前の状態で冷凍することは全く問題ないので、「焼く前の状態で成形冷凍、焼いたら冷蔵も冷凍もしない」、これが基本です。 


どうしても冷凍にしたい事情がある場合は、結露しないような対策をとります。

タルトやパイなどは中のフィリングを冷凍可能なものにする、分離する水分は生地に含ませない、あるいは別のものに含ませる、といった対策をとります。

こういった粉を主としたお菓子や生地などは、冷蔵保存をすると澱粉の老化を早めて良くありません。どうしても長期保存をするなら、冷凍のほうが向いているといえます。



一方、生菓子のほとんどは冷凍できます。 


生菓子に使うもので冷凍できないものの代表は、生のフルーツ、ホイップクリーム、カスタードクリームです。生のフルーツはピューレにするか火を通す、ホイップクリームやカスタードクリームは他のクリームやゼラチンなど、何らかのものを適切な量加え、糖分や脂肪分などの固形分量を増やしてあげれば冷凍可能となります。 


台となるスポンジ類では、目が細かくしっとりふわふわなものはあまり冷凍に向きません。目がこわれやすく、溶けてぐちゃぐちゃになったり、また、全体に縮んだりすることがあります。


別立てのビスキュイなど、目が粗くハードでよく焼き上げて水分の少ないもの、また、糖度の高いスポンジが冷凍に向いています。目の粗いスポンジでは、冷凍によって、より歯切れよく口溶けがよくなるようにも思えます。 


クリームやムースなども基本は同じです。水分量を減らす、固形分量を増やす、わずかに分離する水分を効果的に受け止める工夫をします。 



作ったケーキを冷蔵庫や冷蔵ショーケースに入れておいても、食感も味わいも時間とともに、一日の内にでもどんどん変化していきます。朝と昼と夕方とでは違った印象を受けることもしばしばあります。


冷凍のメリットは長く保存できるということではありません。おいしさを、おいしい状態を持続して保存できるということなのです。冷凍を利用しておいしいケーキを作ることができれば、一度作ったものを比較的長い期間に渡って、最もおいしい状態を最もおいしいタイミングで食べる、食べてもらうことが可能になります。 


冷凍のメリットを生かし、デメリットをむしろ逆手にとった工夫をすることで、冷凍を利用しておいしいケーキを作れるだけでなく、冷凍したほうがよりおいしくなるケーキを作ることもできるわけです。